猫SF

暑い。しかも今日は湿度が高い。長く伸ばした髪が汗を含んで肌に張り付く。最悪だ。

 

ふと、小さくて埃っぽい部屋の話を思い出した。

 

高校生の時、1年生の時に使う昇降口の隣に開かずの部屋があった。本来入り口であるはずの場所は壁に塗り固められていて、さらにその前に大型のロッカーが置いてある。外から見た時も一目ではわかるわけもなく、私がその部屋の存在に気がついたのは6月も半ばの時だった。

不思議に思ったのは、外から昇降口を見た時だった。

黒く曇った窓があった。

反対側に回って見ると、大きなロッカーがある。ロッカーの後ろの壁は、少しだけ色が違った。

高校の卒業生である先生に聞いてみたり、OBのおじいちゃんに聞いてみたりしたが、その部屋は物置だったり、設計ミスだったりした。中に何があるかは今でもわかっていない。

 

 

 

怖っ!!!怖いよ!!!!!!

でもホラーじゃないはずなんだ!なんか空襲の時に病院があった場所みたいな話は聞いたけれど、定かな情報がほとんど得られてないんだ!!何が言いたいかっていうと、こういうオカルトみたいな、学校の七不思議みたいなものってとても興味をそそるよね、ってこと。

もーちょい明るい事を考えたい人生だった。

 

 

もわっとした蒸し暑い部屋のことを思い出した。

 

外に出てみた。屋上にはまだ誰も来ていなかった。私はここから見える景色を独り占めしていた。伸びている送電線も、遠くに見える新宿も、新宿の左側に見えるスカイツリーの頭も、カンカンに照りつける太陽も、全てが好きだった。コンクリートに包まれて溶けてしまいそうな暑さの中で、息を吸った。空気が入ってこない。下の方から運動部たちの声にもならない声と、楽器の音が聞こえてくる。

私は世界の中でどうしようもなく1人だった。

 

 

私は世界の中でどうしようもなく1人だ。

周囲の音が、周囲の光が、周囲の胎動が、私は1人だと分かりきったことを言ってくる。

 

 

病室のことを思い出した。

 

消毒液の匂いに混じって、重苦しくて息の詰まるにおいがする。これは、死のにおいだ。黄色くぎょろぎょろとした、痩せこけて落ち窪んだ目を見ると体が竦む。目が黄色い。私を中心に捉えている"はず"の目は光を失い、口は餌を求める鯉のようにパクパクと開閉している。心拍を伝える機会は無機質な整っていないリズムをとり、心も平坦になっていく。

苦しむ顔や驚く顔、何を言っているかわからない白衣を着た人の言葉。私には全部が嘘に見えた。

 

夏の病室は酷く蒸し暑く、くさい。

私はいつになったらここから逃げ出せるのだろうか。

 

 

夏への扉は、目の前だ。