どこまで話したのだっけ。
あ、そうそう、私の語彙が「ハッ…ハムタロサァン……」しかなくなったところだ、そうだ。
これね、うん。
そう!そうなんだよ!!
声がかわいかった!!!恋ではなかったけど!!!!
と、そのままどっぷりとツイキャスを見る側にハマってしまったのだった。
毎晩定時に始まるキャスを聞きに行って、アイテムを投げ、せっせとコメントという自分のいた証のようなものを振りまいて、必死だった。私はそのとき必死に芸を見てもらおうとする犬だった。ハムスターじゃないんかい!自分で突っ込んでしまった。
しかし、当時の私はここから更なる悪夢が待ち受けていることを知る由もなかったのだ……
そんなこんなで生活サイクルにラジオ(のようなもの)が追加された私であったが、現実は厳しいものだった。親を除いた何が私の生活サイクルの邪魔者だったかというと、それは眠気だった。とても耐えられるものではない。ついこの間までは授業中に先生の話に相槌を打つ、いや打ちまくる、"生きる赤べこ"と言われたこの私が、ちょっと夜更かしするようになっただけで、授業中に目を閉じヘドバンを繰り返すやべーやつになっていた。いつ"船頭"というあだ名がついてもおかしくないほどに、わたしは同学年はまだ誰も知らないであろうという遊びに心酔していた。
くわえて、まだオタマジャクシだった私にとって、この遊びの世界は限りなく広がる海に感じられた。皆が日陰者だったもので、大して陰と陽の境界もなく泳いでいられた。素晴らしい海だった。
インド洋みたいに。
広がり続ける海の中で、私は迷子になっていた。今なら海上自衛隊に助けてもらえるが当時はまだスマートフォン黎明期、誰も私の時間配分に歯止めをかける人はいなかった。
昨夜観たアニメの話をするだけでは飽き足らず、今夜見るであろうアニメの話をしていた私は、いつの間にかボーカロイドの奔流にのまれ、歌キャス界隈に遭難し、そこでも居心地が良くてさらに漂流し、珍獣である"キャス主"がのさばる原始的な島に流れ着いてしまったのだった!!おお!神よ!我らを救いたまへ!!
しかし私は一人ではなかった。経緯は違えど同じように漂流してきた仲間達がいた。私は仲間たちとともに珍獣を ヨイショ し、アイテムという餌をやり、共存関係を築いた。
私と同じような理由で流れ着いた人が多くいるその島は、人によっては楽園だったのだと思う。風紀の乱れというのはどこにでもあるもので、出会いを求めてツイキャスをするという人が増えてきた。俗にいう「オフパコ」というやつが流行り、互いが疑心暗鬼になり、晒し、晒され、この世の楽園だった島はあっという間に腐り果ててしまった。ちなみに私はウォークマンでこの島に単身乗り込んでいたものなので(つまり聞く専だった)、私がやっと縄文時代くらいの文明レベルを手にしたときには島はもうもぬけの殻だったのである。
私はいかだをつくって、新たな島を探すことにした。
私は新しい流行りを見つける度に、こう独りごちるのだ。
気を付けろ、ここもじきに腐海に沈む…
作品がどんどん変わっていくんだけど?
種を食べないで蒔いておけば、もっと沢山の種が食べられるよ。