緑と赤と不可視境界線

信号待ちをしている時の自分の思考なんて、目を覆いたくなるような不明瞭さだ。

 

なんか、やけに、手が気になった。人より赤くて、形が綺麗で少し子供っぽく膨らんでいる自分の手。いや、前足と言った方が羊的には差支えが無いんだろうが。その一点にだけ刻み込まれている消えない切り傷と目が合ってしまった。かゆい。

なんでこんなところに傷があるんだろうなあ、これじゃあリスカしている人と大して変わらないじゃあないか、と思った。自分の手の甲に残されているうっすらと残る不名誉な傷。きっと誰かが傷ついて、抵抗として自分に押し付けていったただの"しるし"なんだろう。私は私の傷をなぞってみた。沁みる痛みがあった気がした。もう完全に傷はふさがっているのに。

 

この痛みは血の味がした。

 

自分の心にストッパーをかけてなるべく平坦に、穏やかに生きようとしているけれど時々抑えられないような衝動が目が覚めるように襲ってきている気がする。私は決まってそれを御することが不得手で、言いたいことも言えなくて、はにかんでは枕に顔を埋め、そのまま眠りに落ちてしまうのだ。

 

頭上を覆っていた木々が風に吹かれてざわめく。車が向きを変えた。

時間だ。

 

 

線を越えたら戻ることができないけれど、せめて、誰かがまだこっちを見ているか確認しておかなくちゃ。