私は海の中にいた。身体にかかる水の重みが、私が海にいることを否応なしに自覚させた。体が冷たく、海と同化していく。外の世界の暑さも喧騒も、ここでは全て鈍くなっている。光がオーロラのようにゆらゆらと揺蕩っている。
遠くから、低い唸り声が聞こえた。
水を通しているから何を言っているかはよく分からないが、ひどく苦しそうな声だった。耳に入ってくる音は歪んでいる。
虚ろな目をした大きな黒い影が、上下しているのが見えた。
下を見た。
ただ黒々とした底の見えない穴が自分の周りを取り囲んでいるようだった。
ここから下に行っても誰もいない様な気がした。